とやまの見え方

あまたある出版物の中から富山にゆかりの人物や事象を発掘し、富山を新しい視点で紹介

アルファベットの秘密

      f:id:toyama-keizai:20181205143359j:plain


 私たちの使う言葉に、カタカナやアルファベット表記が多くなった、と指摘されて久しくなります。時に和製英語と揶揄されることもありますが、そもそも英米人は、アルファベットつまりABCなどの個別の文字そのものにどんな印象やイメージを持っているのか、私は疑問でした。アルファベットは単なる記号で、それ自体には何の意味もなく、いくつかが組み合わさって意味を持つ言葉になる、そのための味気ない道具とみなされているのでしょうか。
 かねがねそんなことを考えていたら、幸い『英国人デザイナーが教えるアルファベットのひみつ』と題する書籍を見つけました。著者は英国出身のアンドリュー・ポセケリ氏、日本在住歴13年のフリーランスグラフィックデザイナーです。
 さて、「A」は、予想通り、著者によるとアルファベットの先頭にあり「ナンバーワン」を意味するものとして認識されているそうです。また、こんなエピソードを紹介しています。アメリカの研究によると、試験前にAの文字を見た学生は、見なかった学生より良い成績だった。さらに、「failure=落第」の頭文字Fを見た学生は、より悪い結果に終わったということです。
 次に「B」は、やはりB級、二流ということのようです。
〈Bは、いつまでたっても第1位のAの次点に甘んじるように運命づけられている。最初のプランが失敗した時の次善の策という意味の「プランB」、あるいは招待客やセレブの「Bリスト」といった使われ方をする。〉
 のだそうだ。
 さらに「C」です。日本人には、チョット想像力を要するのだけれど、Cは、Fと同じく日常生活で絶対に使ってはいけないNGワードの頭文字であると、著者は力説しています。
〈この言葉は、その文字を冠した「c-word=cで始まる言葉」と表現したり、英語ではよく用いられる手法だが、「c*nt」というふうに母音を「*(アスタリスク)」にしたりする必要がある〉
 と、そんな気遣いがかの国にあるそうです。
 そして、「V」です。これは、勝利を意味するサインとして、英国首相ウインストン・チャーチルが2本指で掲げて広まったということです。しかし、当初のチャーチルは、そのVサインの手のひらを、外に向けたり内側に向けたり、定まっていなかったそうです。ところが、上流階級出身のチャーチルは、手のひらを内側に向けて2本指を立てるのは英国の労働階級では侮辱にあたることを、知らなかったらしい。それを指摘されてから、チャーチルは手のひらを外に向けたVサインにしていたそうです。
 こうした英米の国のエピソードを数々書いた英国人の著者ですが、日本の事情も書いています。それが、「Y」です。
〈ファスナーの製造会社YKKは、筆者の文字に関する興味を大いにそそった。頭のYはいかにもファスナーの形のイメージだし、二つのKはファスナー業界での優位性を、ある意味宣言している。しかし(ご存知の方も多いと思うが)YKKは実は日本の企業で、Yは単に日本語のローマ字表記では英語よりもよく使われる文字であり、創業者・𠮷田忠雄のイニシャルに過ぎなかった。YKKは運が良かった。〉
 著者は、「K」の項で、「King=王」の優位性やポジティブを意味することもあると、指摘しておられる。
 何十年も前だろうか、私は、テレビコマーシャルで、この富山に本拠を持つ会社のYが、開いていくファスナーを象徴するのに、見とれたことがありました。

(引用参考文献) 
『英国人デザイナーが教えるアルファベットのひみつ』アンドリュー・ポセケリ著
エムディーエヌコーポレーション 2016年9年1日刊

 

著者のプロフィール

千田 篤(せんだ・あつし)

富山市在住の公認会計士税理士事務所所長。月刊「実業之富山」にて富山ゆかりの人物、事象などをテーマにしたエッセイ「とやまの見え方」を160回にわたり連載。著書に『世界の食糧危機を救った男 稲塚権次郎の生涯』がある。